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箆柄暦『十一月の沖縄』2010 池田卓

2010.11.01
  • インタビュー
箆柄暦『十一月の沖縄』2010 池田卓

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箆柄暦『十一月の沖縄』2010
2010年10月31日発行/091号

 

《Piratsuka Special》
池田卓
音楽がくれた出会いを生かし、生まれ島を元気にしたい。

 人口わずか四〇名、集落外への交通手段は船のみという環境から陸の孤島とも呼ばれる西表島・船浮地区。その小さな集落に生まれ育ち、かけがえのない故郷や家族への思いを「島の人よ」「ちばりよー」「おばあちゃんの唄」などのオリジナル曲に乗せて真摯に歌ってきたシンガーソングライター・池田卓が、この秋デビュー十周年を迎えるにあたり、一つの決心をした。活動の拠点を現在の那覇から、故郷の船浮に移すと決めたのだ。

 県内外で精力的にライブを展開し、ミュージシャンとしても脂ののってきた三一歳の今、なぜあえて不便な場所に帰るのか。そう尋ねると、彼は「島の暮らしが好きだから、というのもあるけれど、何より僕がここで帰らなければ、故郷がなくなってしまうから」と、真剣な眼差しで語った。

 「いま、船浮の住民は四〇人。仕事がないから若い人はいないし、子ども達も小中学生合わせてたった三人。このままでは近いうち廃校になり、そうなれば村は必ず潰れます。伝統行事の節祭りや豊年祭でも、祭りの歌を歌えるのは七五歳のおじいさん一人で、彼が歌えなくなったら後は誰もいない。さらに最近は、本土資本が島の土地を買い占めるような動きもあります。そういった問題から船浮を守るためには、僕のように地元で育った若手が島に戻って定住し、島を元気にする活動をしていくしかない。そう思ったんです」

 帰島後は農業や観光業にも取り組み、「仕事を増やして、住む人を増やして、祭りも盛り上げていきたい」と意気込む卓。ではその間、音楽活動は?と問えば、もちろん止めたりしませんよ、と笑う。本島や内地でのライブも続けるし、三年前から船浮で始めた手作りの音楽祭「船浮音祭り」も毎年開く、と。それはこれまで彼の活動を応援してきたリスナーやバンド仲間に対する誠意であり、彼らを含めた周囲の人々への感謝の現れもであるのだろう。実際、彼は「音楽活動を通じて得た出会いや経験は、今後の僕にとって、とても大きな支えになると思う」と語る。

 「島に帰った僕が一人で何かを始めようとしても、きっと何もできない。音楽を通じて出会ったたくさんの人たちの知恵や応援が、絶対に必要になると思うんです。出会いこそが、僕が島を出て手にした一番の財産です」

 もちろん、音楽そのものを愛する気持ちにもブレはない。むしろ島に暮らすことで歌が熟成し、成長していくことを、卓自身も期待している。

 「もともと僕の曲は島の歌ばかりだから、戻ってからのほうが歌に味や説得力が増すんじゃないかと(笑)。それに今後は島の外からでなく島に住む人の目線で詞が書けるし、八重山民謡もしっかり学ぶつもり。十年後に自分がどんな歌を歌っているのか、今から楽しみなんです」

 そんな彼の活動十周年記念ライブが行われるのは、今月十九日。「島に帰る前におかげさまでここまで来れました、ありがとうと伝えたい」。万感の思いを込めて歌う卓の歌声は、いつも以上に力強く優しく、聞き手の心を揺さぶることだろう。
(取材・文/高橋久未子 撮影/喜瀬守昭 撮影協力/那覇市営奥武山野球場)

 

池田卓(いけだ・すぐる) 1979年、西表島船浮生まれ。15歳で島を出て沖縄本島の沖縄水産高校に入学、野球部でピッチャーとして活躍。卒業後、西表島の芸能祭に出演したことがきっかけで音楽活動を始める。2000年10月にシングル「島の人よ」でCDデビュー。現在までに9枚のCDをリリース。

◆池田卓 ベストアルバム『凪〜Nagi〜』
南ぬ風レーベル PAIN-0018 3,000円 
2010/3/5発売 やまねこ音楽事務所 TEL:098-861-1887
おばあちゃんの唄/島の人よ/lanlan/十三夜/今度の日曜日/かんぱい/ヨーリヨーリ〜泣かないで〜/なりたいな/春の花にキスをしよう/天〜そら〜/小さな翼で/おれのふるさとへ/百合の花/ちばりよ〜