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箆柄暦『六月の沖縄』2013 大工哲弘

2013.05.31
  • インタビュー
箆柄暦『六月の沖縄』2013 大工哲弘

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箆柄暦『六月の沖縄』2013
2013年5月31日発行/122号

《Piratsuka Special》
大工哲弘

《Piratsuka Topics》
DVD『第57回 沖縄全島エイサー祭り』全3巻
“おおまり”澤井毎里子ライブ
第3回 ウチナー祭
THE BOOM『世界でいちばん美しい島』
サンサナー『Sansanar3』
藤木勇人『うちなー妄想見聞録』Vol.24
パマルカ&ダリオ・ムニョス『CON ALMA y VIDA』

 

 

 

Piratsuka Special
大工哲弘
『ブルーヤイマ』

八重山の歌をより多くの人に届けたい。

 八重山民謡界を代表する唄者として、四十年以上にわたり第一線で活躍してきた大工哲弘。トラディショナルな八重山民謡を歌い継ぐ一方、ジャズやロック、チンドンなど多ジャンルの音楽とのコラボにも積極的に取り組み、八重山民謡の普遍的な魅力と、新たな可能性を提示してきた。そんな彼が、この五月に新譜『ブルーヤイマ』をリリースした。

 プロデュースは、大工と以前から親交がある音楽家の久保田麻琴。彼は一九七〇年代に喜納昌吉を本土に紹介し、最近では宮古島の神歌を描いた映画『スケッチ・オブ・ミャーク』の原案・監修を担当するなど、沖縄の音楽に造詣が深いことで知られている。その久保田と今回タッグを組んだ理由について、大工は「久保田さんは、八重山や宮古の民謡に本気で向き合ってきた人だから」と語る。

 「八重山や宮古の民謡に携わるには、音楽的な側面だけを見ていてもダメなんです。もともとこれは神様に捧げるために生まれた歌なんだ、というところまで立ち戻らないと、歌の根っこの部分は理解できない。久保田さんは、八重山民謡のそういう精神的な面も大事にして、常にリスペクトの気持ちを持って民謡に接してきた人。彼となら、きっといい作品が作れると思いました」

 そうして始まったアルバムの録音には、久保田のほかパスカルズの鍵盤奏者のロケット・マツ、若手ドラマーの伊藤大地らも参加し、主に東京のスタジオで、セッション形式で進められた。収録曲は、大工が「人頭税など八重山の知られざる歴史も伝えたい」との思いで選んだ八重山民謡を中心に、以前から大工が歌ってきたフォークシンガー・高田渡の楽曲、さらには久保田の希望でヒット歌謡「星影のワルツ」「悲しくてやりきれない」なども加えられた。久保田は「人頭税や明和の大津波などの辛苦を乗り越えてきた八重山人の、粘り強さと力強さを象徴する大工さんの歌声で、別れと悲しみの曲を歌い、今の日本人の心を癒やしてほしい」と考え、これらの曲を選んだという。

 その狙い通り、大工の大地に根を張るような力強い歌声は、朗々とした明るさの中にも一抹の哀愁を感じさせ、聞き手の心にしみじみと、深い余韻を残していく。そのほかの曲も、久保田らのきめ細やかな演奏に彩られ、大工のソロとはまたひと味違った、聞きごたえある内容に仕上がった。大工自身、本作の完成度にはとても満足していると語るが、実はそれ以上に嬉しいのは、今回の作品が“今まで八重山民謡を知らなかった層”にも、徐々に広まりつつあることなのだという。

 「僕は八重山の歌を、もっと多くの人に聴いてもらうことが一番大事だと思ってるんです。そのためには、伝統は伝統で大切にしつつ、ときにはその枠から一歩踏み出して、間口を広げていかなくちゃならない。今回は久保田さん達と組んだことで、彼らの音楽のファンなど、今までとは違う層に八重山民謡が届き始めた。これは本当に嬉しいことですね」

 アルバム名『ブルーヤイマ』の「ブルー」は、八重山の海や空のブルーであり、また同時に「ブルース」の意味も込められているという。伝統と革新、明るさと切なさが同居した、大工哲弘にしか歌えない八重山の歌が、ここにある。
(取材&文/高橋久未子 撮影/Adam L-Photography)

 

大工哲弘(だいく・てつひろ) 1948年、石垣市生まれ。1969年にシングル「川良山節・マルマボンサン」を初録音。那覇市役所勤務の傍ら、八重山民謡の公演や普及活動、他ジャンルのアーティストとの共演など、多方面で活躍。2006年以降は音楽活動に専念し、後進の育成にも尽力している。沖縄県無形文化財(八重山古典民謡)保持者。

◆大工哲弘
『ブルーヤイマ』

タフビーツ UBCA-1032 2,800円 2013/5/8発売
黒島口節/弥勒節/望郷哀歌/星影のワルツ/猫ゆんた/おやどのために/月出ぬはなむぬ/鮪に鰯/安里屋ゆんた/八重山乙女の数え歌/生活の柄/六調節/悲しくてやりきれない