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箆柄暦『八月の沖縄』2009 中江裕司監督『真夏の夜の夢』

2009.08.18
  • インタビュー
箆柄暦『八月の沖縄』2009 中江裕司監督『真夏の夜の夢』

pira0908_hyo250箆柄暦『八月の沖縄』2009
2009年7月31日発行/76号

《Piratsuka Topics》
BEGIN『3LDK』
朝比呂志作品集
上間綾乃『まじゅん』
奥野修司『沖縄幻想』
人気のJTA機内誌「コーラルウェイ」が創刊123号を記念し展示会を開催
ひめゆり平和祈念資料館が
開館20周年記念事業で企画展などを開催
島グニーズ『ナビイ・ロード』

 

 

 

Piratsuka Special
『真夏の夜の夢』
(沖縄上映題『さんかく山のマジルー 真夏の夜の夢』)

キジムンと共存してきた沖縄の“力”を
伊是名島の大自然の中で活き活きと描く

学生時代から沖縄に暮らし、『パイナップルツアーズ』『ナビィの恋』『ホテル・ハイビスカス』など、沖縄を舞台にした映画を撮り続けてきた中江裕司監督。その最新作『真夏の夜の夢』(沖縄上映題『さんかく山のマジルー 真夏の夜の夢』)が、この夏、沖縄を皮切りに全国で公開されている。

モチーフとなっているのは、シェークスピアの名作『真夏の夜の夢』。原作は一六世紀のアテネを舞台に、恋に悩む若い男女が、妖精パックの仕掛けたイタズラで一夜の恋愛騒動に巻き込まれるファンタジックコメディだ。この物語を沖縄で撮る、というアイディアがプロデューサーと脚本家から持ち込まれたとき、中江監督は「これは面白い、とピンと来た」という。「原作と脚本に書かれていた“妖精と人間が当たり前のように共存している世界”が、ボク自身が沖縄で見たり感じたりしてきた世界と一致していたんです。そして、妖精パック役にあたる精霊“マジルー”に魅力を感じ、“マジルーをメインに撮りたい”と思いました」。

そうしてできた物語は、沖縄の小さな島を舞台に、島の人間と精霊(キジムン)たちが繰り広げる騒動をハートフルに描くものだった。東京での恋に疲れて故郷の世嘉冨島(ゆがふじま)に帰ってきた主人公・ゆり子と、島の守り神であるキジムンのマジルー。二人の心の交流が、ロケ地である伊是名島の圧倒的な自然をバックに、ときに微笑ましく、ときにユーモラスに、溌剌と描写されていく。

物語の鍵となるマジルーは、キジムンと人間の血を引く精霊で、男の子でも女の子でもない“半端キジムン”だ。どの世界にも属さないその立ち位置は、さまざまな文化の混じり合う沖縄や“沖縄に住む日本人”である中江監督自身とも、どこか重なってみえる。そんなマジルー役を三千人のオーディションの中から射止めたのは、前作『ホテル・ハイビスカス』で主人公の“ウーマクー(わんぱく)美恵子”役を演じた蔵下穂波だった。中江監督は彼女を選んだ理由について「オーディションのとき、彼女の後ろに(キジムンの住む)森が見えたから」と語り、選ばれた穂波は「マジルーになれると思って嬉しかった」と笑った。

実際、撮影現場での彼女はマジルーに“なって”いたそうだ。「穂波が“できない”というときは、演技が難しいんじゃなくて“マジルーの気持ちがわからない”んですね。でもどこかの時点で“わかった”ってなると、そこからはもうマジルーになってしまう。カットがかかってもマジルーのままでした」。監督のその言葉通り、マジルー・穂波がスクリーン上を活き活きと駆け回り、大好きなゆり子に笑いかけるさまは、実に魅力的。その存在感は、監督がこの映画に込めた思いを体現しているかのようだ。

「この映画のテーマは“キジムンの存在そのもの”なんです。キジムンの存在を受け止めるということは、見えないものと共に暮らす力がある、ということ。僕はそれこそが沖縄の持っている力だと思います。正直言うと、脚本を書いている段階では、その“力”はもう沖縄から失われているのではないか? と悲観的になったこともありました。でも、完成試写を見た沖縄の人たちの反応を見て“沖縄はそんな弱っちいもんじゃない”と強く感じました。ウチナーンチュはもっと長い時間の流れの中でたくましく生きているんだ、と」

ヤマトーンチュの中江監督が、いわば“沖縄そのもの”と向かい合って撮った『真夏の夜の夢』。監督が感じた沖縄の力を、ぜひ映画館で確かめてほしい。
(取材/萩野一政、構成/高橋久未子)

【監督】中江裕司(2009年 日本・沖縄 カラー 105分)
【出演】柴本幸/蔵下穂波/平良とみ/平良進/和田聰宏/中村優子/吉田妙子/親泊良子/照屋政雄/玉城満他
『真夏の夜の夢』公式サイト:http://www.natsu-yume.com/