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箆柄暦『十一月の沖縄』2018 しゃかり

2018.10.29
  • インタビュー
箆柄暦『十一月の沖縄』2018 しゃかり

《Piratsuka Special Long Interview》

しゃかり
〜20年間の“えにし”への感謝を、歌に込めて〜

[icon name=”microphone” class=”” unprefixed_class=””] 箆柄暦[紙]の特集に掲載しきれなかったインタビューの全容を一挙公開!

1998年の結成から、今年で丸20年となる沖縄ポップスユニット「しゃかり」。ボーカル・チアキの透明で伸びやかな歌声と、プロデューサー兼プレイヤー(三線/パーカッション)のカンナリによる沖縄テイストの親しみやすいサウンド、そして心温まるポジティブな歌詞で人気を集めてきた彼らが、今月、周年記念作品となるフルアルバム『えにし』をリリースする。「これまで自分達を支えてくれた方達との“縁”に感謝する気持ちを込めて作った」と語る二人に、本作のリリースに至る経緯や、この20年間の活動について語ってもらった。

●20年間の集大成となるアルバムが完成

—-今回の『えにし』は結成20周年記念アルバムになりますね。リリースの準備はいつ頃から始められたのでしょうか?

チアキ 実は今回のアルバムは、スタートがとっても遅かったんです。もともと今年は2月に『オールタイムベスト』というベスト盤を配信リリースしていたので、その時点ではもう一枚フルでオリジナルアルバムを作るパワーがなかなか出なくて。でも、20年間応援してくださっているファンの方々にお尻を叩かれたというか(笑)、「新しいCDは出さないの?」「単独ライブはやらないの?」って聞かれて、「本当、そうだよね」と思って。まずは定期的にライブをやろうと決めて、「偶数月は県外のどこかでライブをします」と発表したんですが、そのときカンナリさんが「毎回必ず1曲は新曲を持っていきます」と宣言してしまったんです(笑)。それで私も一緒にがんばろう!ってなって、そこから二人で曲を作り始めました。

—-今回のアルバムには、オリジナルの新曲9曲のほかに、新曲の別ミックスとインストゥルメンタルバージョンが1曲ずつ、そして竹富島のわらべ歌が収録されています。アルバム作りにあたって、何かコンセプトはあったのでしょうか。

カンナリ 僕らの作品は今回に限らず、毎回「コンセプトありき」ではないんですよね。今回も特にテーマを決めて作ったわけではなくて、隔月のライブを前に曲作りをする際に、そのときどきに思ったこと、感じたことを綴っていく感じで作りました。作詞は僕とチアキ、曲はすべて僕が書いています。
実は最初はもう少し小規模のミニアルバムにしようかと思ったんですが、曲作りを始めたらエンジンがかかってきたので、曲を増やしてフルアルバムにしました。僕ら、一度エンジンがかかると突っ走れるタイプなんです。ただ、実際にレコーディングに入ったのは9月からだったので、そこからの作業は大変でしたが(笑)。

—-サウンド面では、これまでと同様に三線を使ったり、エイサー囃子を入れるなど沖縄テイストを打ち出した曲がある一方で、ポップス調の曲では沖縄色はあまり強く出さず、洗練度が高まったように感じられました。作曲と編曲を担当するカンナリさんの中で、何か意識の変化があったのでしょうか。

カンナリ 今回は「沖縄らしさ」に対するこだわりを捨てたというか、もっと自由に作ってみようと思ったところはありますね。僕らのルーツにあるのは沖縄だし、歌詞やメロディのニュアンスにも沖縄らしさは絶対に出てくるんだけど、今回はそこにあまりこだわらなくてもいいかな、と。やっぱり20年もやってると、ずっと同じことの繰り返しでは飽きちゃうし(笑)。といっても最終的には20年間の集大成というか、「しゃかりは20年間でこんなことをしてきたんだよ」というのが伝わるアルバムになっていると思います。
あと、今回ちょっと特別なのはアレンジですね。これまでは僕が一人でアレンジをしていたんですが、今回は松元靖さん(注1)や、玉置淑晴(としはる)さん(注2)など、沖縄の若手ミュージシャンにもアレンジを頼みました。やはり20周年記念ですし、これまで僕らに関わってくれた人達と一緒に作りたいな、という思いもあったので。

注1:松本靖:インストゥルメンタルバンド「太陽風オーケストラ」のキーボーディスト。作・編曲家として、CM音楽や舞台音楽、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース等でも活躍している。

注2:沖縄で音楽事務所「ナンクル」を経営する作編曲家・音楽プロデューサー・キーボーディスト。沖縄出身の女性シンガー・多和田えみの育成&プロデュースを手がけ、彼女をメジャーシーンに送り出したことでも知られる。

—-つまり今作は、しゃかりの「これまで」を振り返りつつ、「ここからまた新しいものを作っていく」という気持ちも入った作品、という感じでしょうか。

カンナリ そうですね。ただ、僕らは「ようし、これから新しいものをやるぞ!」みたいな気迫が、いつもちょっと足りなくて(笑)。これまでの20年間も「やるぞ」と思ってやってきたというより、「周りに支えられてふわふわとやってるうちに、気づいたら20年経ってた」っていう感じなんです。僕は若いとき、チアキに「60歳を過ぎても続けられる音楽活動をしたいね」って言ったことがあるんですが、その意味では20周年も「今後も音楽活動を続けていくうえでの通過点」にすぎなくて、盛大に「祝ってくれ!」って感じのものではないんです(笑)。
ただ、「20年の間にファンの方や周囲の方達から受けた恩をお返ししたい」という思いは強くあって、それで今回はそうした方々との“縁”への感謝を込めて、アルバムタイトルを『えにし』にしました。しゃかりの音楽を、みんなの共有物みたいにできたらいいなと。言ってみれば「えにし」は僕らにとって今回だけではなく、この先もずっと続くテーマですね。

●歌を聞いてくれる人の存在が原動力になる

—-今年で結成20周年ということですが、この20年間を振り返ってみて、どのように感じていますか。

チアキ 私、若い頃は「歌手として生きるんだ!」という思いが強くて、大スターがよく言うように「最後は舞台の上で死ぬ!」みたいな(笑)、やる気満々でとげとげしいというか、気合いが入りすぎているところがあって。20代前半は沖縄のラテンバンド「ディアマンテス」にコーラスで参加して、メジャーデビュー後は5年間、がんばって走り続けました。その後カンナリさんと出会って結婚して、しゃかりを結成したんですが、しゃかりでも最初の5~6年は、すごくがんばってしまって。歌い方も常に声を張り上げていたし、いろいろ無理して体を壊したこともありました。
だから「ふわふわ」と音楽を続けられるカンナリさんは、私にとって、とてもいい相方なんです(笑)。私はいつも「尖った気持ちを持たなきゃいけない」と思ってやってきたけど、年を重ねるにつれ、次第にカンナリさんの「ふわふわ」に感化されてきて、自分も少しずつ「ふわふわ」できるようになってきました。
そしてここ数年、40代も半ばにさしかかって、昔のようには声が出なくなってきたな、と感じたとき、フッと『この先自分の声がどう変わっても、今まで培ってきたことが“チアキらしさ”として表現できていれば、それでいいんじゃないか』と思えて、気持ちを切り替えることができたんです。だから今回のレコーディングでは、無理に声を張ることもなかったし、いい意味でがんばらず、とても楽に楽しく歌えました。少しくらいピッチ(音程)が悪くても「ああ、これはゆらぎだから、気にしない、気にしない」って(笑)。

カンナリ そうね、今回はがんばらなかったね(笑)。

チアキ がんばらなかったよ、いい意味で(笑)。だから今は、歌うことが本当に楽しいです。
実はしゃかりの20年間って、山あり谷ありの連続で、しかも上がるときも大きいけど、下がるときも大きくて、その振れ幅が激しくて。特に3年前、愛猫のジャッカルを亡くした後は一番のどん底で、何もできない、身動きもとれない、まるで廃人のような状態でした。それもあって去年までは、しゃかりとしての活動は、積極的にはほとんどやってこなかったんです。
でも今年に入って、「20周年でしょ」ってファンの方々に背中を押してもらって、曲を作ってライブを始めてみたら、気持ちも次第に前向きになってきて。今は「早く次のライブをやりたい、新しい曲を発表したい」と思えるようになりました。なんか肩の力が抜けたというか。この先も、今までみたいに「がんばる」のは無理だけど、私たちの音楽を聞いて喜んでくれる方がいるのなら、できる限り音楽活動を続けていきたいと思っています。

—-20年間しゃかりを続けてこられたのは、ファンの皆さんの応援が大きかったということですね。ちなみに、それ以外にも何か「音楽を続けられた理由」はありますか?

チアキ 私の場合は「夫婦で音楽家だから」というのが大きいかもしれませんね。私、カンナリさんと結婚して一番良かったと思うのは、「朝から晩まで音楽の話ができること」なんです(笑)。普通、特に女性は「家に仕事の話を持ち帰るな」って言われるけど、うちはいつでも大好きな音楽の話ができる。もし旦那さんが別の仕事をしている人で、家で音楽の話ができない環境だったら、私は途中で心が折れてしまって、歌えなくなってたかもしれません。だからカンナリさんには、これからも長生きしてもらわないと(笑)。

カンナリ 僕の場合は「(音楽を)趣味でやってるから」じゃないかな。僕はもともとはドラマーですが(注:しゃかり結成以前は、沖縄ポップバンド「りんけんバンド」でドラムを担当)、しゃかりではギターや三線や鍵盤を弾いてて、どれも技術的にはプロの域に達してないけど、やってると楽しいし曲を作りたくなるし、曲ができたら発表したくなるし、それを聞いて反応してくれる人がいれば嬉しくなって、その積み重ねで音楽活動を続けてきた感じなんですよね。CDを作るのも「○万枚売らなきゃいけない」って世界にいたら続けられないけど、僕らはそういうこともなく、ギリギリではあるけれど好きなことをやりながら、なんとか20年ご飯を食べてこられた。結局は「趣味」だから、楽しいから続けてこられたんだと思います。ま、僕自身はしゃかりをやめようと思ったこと自体、あんまりないんですけど(笑)。

チアキ 本当に、私たちの音楽を聴いて喜んでくださる方がいるっていうのは、とてもありがたくて幸せなことだと思います。

カンナリ そう、たとえばデビュー当時のライブによく来てくれていたファンの方が、「今年は20周年だから」って、十数年ぶりにライブに足を運んでくれたりするんです。そういう方達がいるというのは、僕らにとって幸せ以外の何物でもない。そして、そこで曲を演奏できるのは一番の喜びであり、しゃかりの活動を続けていく上での原動力になっていると思います。

●聴き手の心に寄り添う音楽を届けたい

—-そうやってしゃかりの音楽を聴いてくれている方々に、この先、どういう音楽を届けていきたいですか?

チアキ 私、音楽ってアロマオイルと一緒で、その時々でその人に必要なものは変わっていくと思うんです。たとえば、ずっとラベンダーの香りが好きだったのに、急に柑橘系の香りが好きになったりすること、ありますよね。音楽もそれに似たところがあって、その音楽がその人にとって必要なときと、そうでないときがあるのかなと。私たちの音楽は、その人が一番必要としているときにそっと寄り添えたり、背中を押したり、考え方を切り替えるきっかけになれたりしたらいいな、と思うんです。

カンナリ 「聴き手の心に寄り添う音楽」というコンセプトは、しゃかりの結成当初からずっと変わらないですね。これはチアキの性格や、育った環境もあるのかなと思います。チアキは小さい頃、目の見えないおばあちゃんに育てられたんですが、そういう家庭は周囲の手助けが必ず必要なんですよね。チアキはみんなに助けられながら育ったので、周りに感謝する気持ちが強くて、その精神が歌詞などにも反映されてるのかもしれません。

チアキ ただ、聴き手の心に寄り添うためには、歌い手として「聴き手に受け入れてもらえる発声法」が必要で。若い頃はキンキン声を張り上げて歌ってて、当時はそれはそれでベストを尽くしたつもりでしたけど、40代半ばになった今ではもうそんな声も出ないし、先にも話したように「声の質が変わっても、チアキらしさが表現できればいいんだ」と気づいたので、今は力を抜いて楽に歌えるようになりました。歌うときは、自分の気持ちが声に乗って、ミストのように心地よく広がっていけばいいなあ…とイメージしています。

カンナリ ここ数年は、そういう歌い方になってるよね。声を張り上げない、相手の心を無理につかもうとしない、自分の気持ちを押しつけようとしない。「よかったら受け取ってください」みたいな感じ。これも20年ずっと歌ってきたからこそ、できるようになったことかもしれません。

チアキ 今回、収録曲の中に「こんな日が来るとは思わなかった」という曲があるんですが、私自身この20年の間には気持ちがどん底まで落ち込んで、もう一度楽しく歌える日が来るなんて、とても思えない日もありました。でも今の私なら、当時の私に「ぜんぜん大丈夫、ちゃんと乗り越えられるよ」って言ってあげられる。本当に今、こうやって歌を歌って音楽の話ができるのは、とても嬉しいし、幸せです。この先も「しゃかりの音楽を聴きたい」と言ってくださる方が一人でもいる限り、私は音楽を続けたいと思うし、それが私が生きている意味だと感じています。

そんな“進化”と“再生”を経て制作された本作は、チアキの柔らかく包み込むような歌声とともに、「今までのしゃかりの集大成」、そして「新しいしゃかりの始まり」を感じさせる作品となっている。今後は本作を携え、ライブ活動にも力を入れる予定とのこと。21年目に向かう彼らの今の音楽を、ぜひじっくりと聴いていただければと思う。
(取材&文・高橋久未子/撮影・喜瀬守昭)

しゃかり

ヴォーカルのチアキと、プロデューサー兼プレイヤー(三線/per)のカンナリによる沖縄ポップスユニット。1998年にシングル「永遠に響かせたなら」でデビュー。ユニット名は、チアキの生まれ育った北谷町謝苅(じゃーがる)の読みをアレンジしたもの。

[CD Info]

しゃかり『えにし』
KJC MUSIC KJC-004
2,500円(税別) 11/23発売

逢えてよかった/シャアコミュニケーション/こんな日が来るとは思わなかった/七月口説/わったー家/おもかげ/こねまぬ名や(名付けの子守唄)/まさひろドーイ/主人公/おやすみ/逢えてよかった(チアキMIX)/おもかげ(Instrumental)

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[Live Info]
◆しゃかり 結成20周年CD発売記念ライブ『えにし』
日時:11/23(金)18:00開場/19:00開演
場所・問い合わせ先:MOD’S(北谷)TEL.098-936-5708
料金:前売3,500円(完売)

◆しゃかり 20周年企画 vol.7
日時:12/14(金)17:30開場/19:30開演
場所・問い合わせ先:居酒屋こだま(東京・小岩)TEL.03-5668-2098
料金:前売3,500円/当日4,000円