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2019年12月03日 火曜日

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箆柄暦『一月の沖縄』2020 『五月九月(ぐんぐぁち くんぐぁち)』

《Piratsuka Special Topics》

『五月九月(ぐんぐぁち くんぐぁち)』
~極上の琉球芸能をコメディ仕立てで楽しむ~

組踊、琉球舞踊、民謡、エイサーなど、沖縄の多彩な芸能を舞台化し、観光客や県民に向けて上演してきた沖縄県のプロジェクト「沖縄県文化観光戦略推進事業 沖縄芸能DAYS」。今年は4作品が公募で選ばれ、2019年10月から順次披露されているが、その最後を飾るのが2020年2月7日(金)~9日(日)、那覇市のてんぶす那覇テンブスホールで上演となる『五月九月』だ。

この作品は琉球王朝時代の首里城を舞台に、本格的な琉球芸能をコメディ仕立てのストーリーに折り込んだ創作歌舞劇。ある年の9月、中国からの使節団(冊封使)の歓待準備をしている首里城に、「薩摩の役人も今、城に向かっている」との連絡が入る。本来ならば薩摩の来沖は翌年5月のはず。実は責任者の踊奉行が、発音の似ている「五月(ぐんぐぁち)」と「九月(くんぐぁち)」を聞き間違え、使者をもてなす宴席をダブルブッキングしていたのだ。城内は大混乱となるが、琉球王国にとってはどちらも大事なお客様であり、一方をキャンセルすることはできない。彼らは二つのおもてなしを同時進行するハメに陥るも、智恵とチームワーク、磨き抜いた歌と踊りでピンチ脱却を目指す…という物語で、話の展開や会話の面白さに大笑いしつつ、美男子たちによる琉球舞踊や組踊、島々の民俗芸能など、バラエティ豊かな芸能を堪能できる仕掛けになっている。

本作の脚本・演出を手がけたのは富田めぐみ。民俗芸能の盛んな八重瀬町富盛に生まれ育った彼女は、女優、ラジオパーソナリティ、テレビレポーター等の経験を経て、近年は主に琉球芸能舞台の作・演出や、海外公演コーディネイトといった活動に携わっている。沖縄の伝統芸能をこよなく愛する彼女に、この作品が生まれたきっかけや見どころ、作品を彩る琉球芸能の魅力などについて語ってもらった。

●伝統芸能には人を感動させる底力がある

—-『五月九月』は初演が2013年ですが、この作品が生まれた経緯についてお聞かせください。

富田 私がこの作品を作った動機は大きく二つあって、一つには「ダブルブッキング」の話を書きたかったんです。物語の中では、中国と薩摩の使者を歓待する宴が重なって、芸能を披露する立方(たちかた:踊り手)や地謡(じうてー:歌い手)が、双方の宴席をドタバタ行ったり来たりする…という展開になりますが、実際、今の琉球芸能の実演家達もみんな、ものすごく舞台を掛け持ちしてるんですよ。たとえば国立劇場おきなわには、舞台が大小合わせて二つ、稽古場も複数あるんですが、人気のある実演家だと昼間は小劇場の舞台に出て、終わったら稽古場で別の舞台の稽古をして、夜は大劇場でさらに別の舞台の本番をやって…みたいな状態がざらなんです(笑)。みんな舞台上では優雅に堂々としてるけど、裏では劇場内を上に行ったり下に行ったり、本当に大忙しで。そういう「客席からは見えないドタバタ」や「舞台裏の奮闘」を描いてみたかった、というのがあります。

—-もう一つの理由は?

富田 もう一つは「伝統芸能はそのままでは(馴染みのない層には)わかりにくいから、わかりやすく変えたほうがいいんじゃないか」という考え方に対する反論ですね。

沖縄ではここ十年くらい、伝統芸能を観光コンテンツとして捉える動きが盛んになってますが、そういう場ではどうしても話が「わかりやすさ重視」の方向に行きがちで、とにかく見栄えのいいもの、伝わりやすいものが求められるんです。もちろん、演出や構成を工夫してわかりやすくするのはいいんですよ、私達もいろんな方に見てもらいたいですから。でも、伝統芸能にはアンタッチャブルなところが絶対にあって、たとえば歌を途中で切るとか、曲のテンポを変えるとか、そういうのはいくら「わかりやすさが大事」といっても抵抗を感じます。

そもそも、芸能は元の姿のままでとても美しいし、人を感動させる底力があると思うんです。私はあるとき、翌日に本番を控えた夜中の稽古場にいたことがあったんですが、それまで衣装の準備だの、弁当の手配だのでドタバタしてた実演家達が、「明日は最初に『かぎやで風』を踊らなきゃいけないから、今ちょっと合わせておこうか」って言い出して、皆で扇子を持って踊り始めたんですね。その瞬間、今までのひっちゃかめっちゃかしてた空気がすっと消えて、彼らの姿が本当に神々しく、とってもきれいに見えたんです。私、それを見ながらボロボロ泣けてしまって。やっぱり芸能はそのままですごく美しいし、素晴らしいし、面白いし、これをわかりやすいカタチに変える必要なんて全然ない!って確信しました。

●芸能をコメディでサンドイッチ

富田 ただ、それをいくら口で説明しても、ホンモノの伝統芸能の素晴らしさをまだ実感できていない層には、なかなか伝わらないのも確かで。それで「これは私が自分で作品を作って、『伝統芸能はそのままのカタチで十分に素晴らしいし、楽しめるんですよ』ってことを証明しないといけないな」と思いました。ただ、一つの舞台で芸能部分だけが続くと、初めて観る人がついてこれないとか、途中で飽きちゃうとか懸念されるのもわかる。だからそこは、芸能の素晴らしさを熟知している私達が構成を工夫して、琉球芸能に親しみのない人でも楽しめるものを作って、こっちの世界に引き込んでしまえばいいんじゃないかと。

そう考えて思いついたのが、「芸能をコメディでサンドイッチする」という手法です。『五月九月』は、劇中で組踊や琉球舞踊、島々の民俗芸能、わらべ歌などいろいろな芸能が登場しますが、どれも芸能そのものの中身はまったくいじってなくて、通常の伝統芸能公演で演じられている内容そのままです。ただ、それらをつなぐ物語部分がドタバタの爆笑コメディ仕立てで、台詞も標準語が中心なので、琉球芸能を初めて観る方でもついてこられるし、飽きずに楽しめるようになってるんです。実は先日(2019年10月)、この作品の東京公演があって、客席には琉球芸能が好きな方だけでなく「演劇はよく観るけど琉球芸能は初体験」という方も多かったんですが、そういう方々も「すごく面白かった」「1時間があっという間だった」って喜んでくれて、「やっぱり琉球芸能はそのままのカタチで楽しんでもらえるんだ」って実感できましたし、すごく勇気づけられましたね。

このときの東京公演は、同年の第74回文化庁芸術祭参加作品となり、大衆芸能部門で大賞を受賞するという快挙を成し遂げた。受賞に際しては、「劇中劇の形で今年上演300年となる組踊『二童敵討』(抜粋)や『かぎやで風』などレベルの高い琉球の伝統芸能を堪能できる構成も秀逸であった。海上交易を通じて育まれてきた沖縄独自の文化の豊かさを改めて感じさせた意義も大きい」と、高く評価された。

—-富田さんの狙いが、ずばり当たった形ですね。

富田 でも、この舞台は私一人の力で作れたものではもちろんなくて。琉球芸能そのものが持っている底力に加えて、私の思いに共感してくれた実演家やスタッフがいて、彼らがその思いを具現化できる力をあらかじめ持ち併せていたということが、この作品を完成させられた最大の理由だし、それは本当に幸せなことだったと思います。実は『五月九月』の脚本は、実演家やスタッフと2泊3日の合宿をする中で粗筋ができて、それを稽古場で動きながら創り上げたんですが、私が「ここはシュッとしてパッとしてキュッとしたいのよ」とか言うと(笑)、みんながごそごそ相談して「こんなんできましたけど」って見せてくれて、私は「ああそれそれ、それでいきましょう」みたいな(笑)。とにかく私が細かく指示するのではなくて、全員がそれぞれの力を投入して、何もないところから作り上げていった作品なんです。あのときは実演家の皆さんの底力に感嘆しましたし、その思いは今も変わりません。

—-実演家の皆さんは、子どもの頃から研鑽を積んできた若手や中堅の実力者ばかりだそうですね。

富田 ええ。この舞台はコメディ作品ではありますけど、出演者は琉球芸能の素養があって、舞踊や組踊ができる人でないと成立しないんですよ。芸能部分の質が落ちてしまうと、舞台に説得力がなくなるというか、観た方に満足感を与えることはできないと思うので。ただ、そういう実力のある人達はいろんな舞台に引っ張りだこで忙しいので、なかなかメンバーが揃わなくて、稽古ができないというジレンマがあって(苦笑)。初演のときも本番直前まで未完成のシーンがあって、「何時なら全員揃うの?!」って聞いたら「26時」って言われて(笑)、本当に夜中の2時に集合して通し稽古したり。とにかく短い時間で集中して作り上げていったんですが、それが可能だったのも実演家の体の中に、歌や踊りの力がしっかりと入ってるからなんですよね。彼らは3歳とか5歳とかの小さい頃から、毎日休まず稽古を続けてきてるわけです。その積み重ねがあったから、あんな短時間の稽古でもこの作品が作れたんだと思います。

●沖縄の芸能はポップで大胆で面白い!

—-富田さんは八重瀬町富盛という、民俗芸能の盛んな地域で生まれ育ったそうですが、その経験が今のお仕事につながっているのでしょうか。

富田 実を言えば、小さい頃は(芸能が)そんなに好きではなかったです。うちはノロ(地域の祭祀を取り仕切る女性祭司)の家系で、地元には民俗芸能がすごくいろいろあるんですが、この地域に生まれたら「これがやりたい」とか「これは出たくない」とかの選択肢は一切なくて(笑)、「○歳になったらあの行列に出なさい、○歳になったらあの舞台に出なさい」って、ほぼ強制的に出る演目が決まってるんです。ただ、そういう芸能は観ていたら面白いし、稽古に行けばおやつがもらえたりするので、ずっと参加はしていました。

大人になってからはラジオやテレビで仕事をするようになって、最終的に琉球芸能の舞台にたどり着いたんですが、いざやってみるとなんか懐かしい感じがしたというか、「小さい頃、イヤというほど舞台に出てたな」って思い出して、「やっぱり舞台は楽しいな、芸能はいいな」と思うようになったんです。それで20代の頃は立方として舞台に出てたんですが、やり始めてすぐに「あ、違う」と気がついて。周りには子どもの頃から琉球芸能を習ってきた人がたくさんいて、そういう人達の芸はもう血が踊ってるというか、私のように大人になって習い始めたのとはぜんぜん違うんですよね。こういう人達にはとても適わないな、と感じたとき、「じゃあ私は裏方に回ろう」と思いました。当時は表舞台に出る人はたくさんいるけど、脚本を書いたり演出したり、プロデュースする人がとても少なかったので。

それで裏に回ってみたら、もうすごい楽しくて。だって、毎年ピカピカした才能ある若い衆が、どんどん出てくるわけじゃないですか(笑)。大先輩方も負けずに元気いっぱいだし。こういうすごい人達がいっぱいいて、こうしてがんばってるんだってことを、芸能そのものと一緒にどんどん紹介していきたい!と思うようになって、そこからは脚本を書いたり演出したり、海外公演のプロデュースをしたり、琉球芸能の世界にどっぷりと入っていきました。

—-富田さんが推したい「琉球芸能の素晴らしさ」とは、どんなところでしょう。

富田 琉球芸能を観て「いいな」「面白いな」と感じるポイントは、人によっても違うと思うんですが、私が観てていつも思うのは、「こんなポップでキレイなものを、一番最初に考えた人はエライなあ」ってことです。たとえば琉球舞踊の「四つ竹」とか、手の中で赤い竹をカチカチ鳴らしながら、頭には大きな花笠をかぶって、それであんなにしっとりと踊るって、なんてポップなの!って思っちゃうんです。あと、松竹梅鶴亀の踊りでは、立方が頭に木や鶴や亀のオブジェを乗せるでしょう。あれも今でこそ定着してるけど、最初にやったときはきっと「何じゃこりゃ」だったろうし(笑)。

本当に琉球の美意識って、すごくポップだし大胆だし、原色のオンパレードでキレイだし、面白いんですよね。それ以外にも出演者がイケメンだとか(笑)、曲が楽しいとか、衣装がキレイとか、楽しめるポイントはたくさんあると思うので、琉球芸能をまだ観たことのない方には、とにかく一度観てもらえたらと思っています。これは観光客など県外の方に限らず、沖縄県民に対しても同じです。「沖縄にはこんな素晴らしい歌と踊りがあって、そこにはこんな歴史があって、今はこんな人達がこういう思いでやってます」というのを、県民の皆さんにもぜひ知ってほしい。伝統芸能は今でもコアなファンによって支えられているところがあるので、もう少し裾野を広げていけたらと。

ただ、伝統芸能というとどうしても「敷居が高い」とか「難解」というイメージがつきまとうので、それをもう少し取っ払えないかな?というのが、私が舞台制作でいつも考えていることです。実際に観てみたら楽しめるはずなんだけど、劇場に足を運ぶ前のところに壁があるので、それを崩すために『五月九月』のような工夫をしてる、というか。だから『五月九月』を観た方が、「沖縄の芸能って面白い! 次はもっと本格的な舞台も観てみたい」って思ってくれて、劇中に出てくる組踊の本編とか、出演者が出ている他の舞台とかを見に行くようになってくれたら、本当に嬉しいですね。そういう方と国立劇場おきなわの客席で隣同士に座って、「やっぱり琉球芸能はいいですね」って語り合いたいです(笑)。

富田が「今回も素晴らしい実演家が揃った」と太鼓判を押す『五月九月』は、盛りだくさんな内容ながら上演時間は1時間とコンパクトで、時間的にも気軽に観られるサイズになっている。週末のひととき、観光客の方も県民の皆さんも、ぜひ会場に足を運んでみてはいかがだろうか。きっと「琉球芸能って面白い!」と感じるはずだ。

なお、2020年1月は10日(金)~12日(日)には、「沖縄芸能DAYS」の第3弾として、那覇市のパレット市民劇場で、沖縄版ミュージカル『沖縄燦燦(おきなわさんさん)』が上演される。作品は沖縄のとある島を舞台に、恋に落ちて結婚する若い男女と、2人を囲む村人達の暮らしを描くもので、琉球舞踊をベースにした流麗かつダイナミックな踊りが、三線や島太鼓、バイオリンの生演奏とともに楽しめる。こちらも2013年の初演以来、国内外で公演を重ね、イギリスの演劇祭では五つ星を獲得した人気作品だ。併せてお勧めしたい。
(取材&文:高橋久未子/撮影:大城洋平)

沖縄県文化観光戦略推進事業 沖縄芸能DAYS

◎2月公演『五月九月』
日程:2020/2/7(金)~9(日)
場所:てんぶす那覇4F テンブスホール(那覇市国際通り)

◎1月公演『沖縄燦燦』
日程:2020/1/10(金)~12(日)
場所:パレットくもじ9F パレット市民劇場(那覇市久茂地)

時間:金曜19:00、土日13:00/16:00
料金:2,500円(高校生以下2,000円、未就学児膝上無料)
問合せ:沖縄県文化振興会 TEL.098-987-0926(平日9:00~17:00)
https://okinawageinodays.com/

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