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2019年12月03日 火曜日

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『新良幸人×サトウユウ子』PiratsukaSpecial

PiratsukaSpecial 2011/10
新良幸人×サトウユウ子

唄三弦とピアノが語り合う、極上のセッション。

昨年八月、 那覇のミュージックカフェ・クモジで、 石垣島白保出身の唄三弦プレイヤー・新良幸人と、 那覇を中心に活動するジャズピアニスト・サトウユウ子のライブが行われた。 二人のステージは二〇〇四年頃から不定期に行われていたが、 その多くは県外公演だったため、 筆者が生の演奏を聴くのはその夜が初めてだった。

「唄三弦とピアノ」のような沖縄音楽と洋楽器の組み合わせは、 すでに沖縄音楽の歴史の中で様々に試みられてきた。 ただ、 これまでは「唄三弦は普段と同じままで、 洋楽器がアレンジした伴奏を付ける」という形が多かったように思う。この日の二人のライブは、 そうした従来のアプローチとはまったく異なっていた。 艶やかで華やかな幸人の唄三弦に、 まるで囃子の名手のように歌い返すユウ子のピアノ。 幸人のレパートリーである八重山民謡やオリジナル曲を中心に、 次々と繰り出される演奏は、 さながら極上のジャズセッションのようにスリリングで、 自由奔放で、 音楽的な喜びに溢れていた。 筆者はこの夜、 新たな音楽の形を耳にしたと感じた。

そんな印象的な夜から約一年、 いよいよ二人の共作アルバム『浄夜』がリリースされる。 本作を聴くと、 昨年のライブで感じた“新たな音楽の形”が何だったのかが、改めて浮き彫りになってくる。ここには、 どちらかがどちらかをサポートするとか、 一方的にリスペクトするというような関係性はない。 ただ二人のミュージシャンが、 音楽を通じて語り合い、 ともに寄り添うようにして“歌う”姿があるのみだ。 二人にとって音楽とは、 言葉以上に気持ちを通わせることのできる、コミュニケーション手段なのだろう。

二人の音の交歓が高いレベルで成就した印象を受けるのは、 録音をすべて“一発録り”で行なったことも大きい。 当初、幸人は唄三弦とピアノを別々に録るつもりだったが、 録音スタジオに入るなり、ユウ子から「はい、一緒にやるよ」と告げられたのだという。 「最初は“いきなりかよ”と焦ったけど、 一曲目の『あがろうざ』を録ってみたら、 別録りとはグルーヴ感がぜんぜん違ってて…。 よし、 今回はこれでいこうと決めたんだ」

さらにユウ子は大胆な提案をしてきた。 「三弦、置かない?」。 そこには「新良幸人の唄の力を極限まで引き出したい」という思いが込められていた。 幸人はこの提案にも応え、 全収録曲の半分ほどをピアノとのデュオで歌い上げた。 幸人自身は「ユウ子と一緒にやるようになって、 三弦なんかガチャガチャ弾くもんじゃないってわかった」と笑うが、 極限までそぎ落とした後に残された三弦の音は、 よりいっそう研ぎ澄まされ、 むしろ今まで以上に存在感を増している。 そしてピアノの音だけをまとった裸の唄声も、 またさらなる輝きを放っているのだ。

どうかこの作品を、 あらゆるジャンルの音楽ファンに聴いてもらいたい。 沖縄が好きかどうかとは関係なく、 すべての音楽ファンの琴線に触れる、 普遍的な作品だと思う。 もちろん沖縄音楽や新良幸人が好きだという人には、 ぜひ聞いてみてほしい。 本作を聴けば、 自分が沖縄の音楽のどこに惹かれていたのかを、 再発見することができるだろう。
(取材・文/萩野一政 撮影/大城亘camenokostudio)

◆Profile
新良幸人(あら・ゆきと)
1967年、石垣島白保生まれ。11歳から八重山民謡を父親に師事。現在はソロ活動のほか、沖縄の人気ロックバンド・パーシャクラブのボーカル、宮古島出身の下地勇とのユニット・SAKISHIMA meeting等でも活躍。
サトウユウ子(さとう・ゆうこ)
福岡県出身、沖縄在住のピアニスト。幼少よりピアノ教師の母についてピアノを学ぶ。現在は県内のジャズ系ライブハウスを中心に活動。与世山澄子(vo)、内田勘太郎(g)ら著名アーティストとの共演も多数。

◆新良幸人×サトウユウ子『浄夜』
タクミノート TECG-25053
2,500円 10/12発売
あがろうざ/月ぬ美しゃ/ファムレウタ/あの夏の日/満天の星/西武門節/浜千鳥/安里屋節/赤ゆらの花/浄夜/明空-ハジマリノウタ-

◆新良幸人×サトウユウ子『浄夜』CD発売記念ライブ
日時:2011年12月5日(月)開場18:30 開演19:30
会場:ラドンナ(原宿)
問合:ラドンナ TEL:03-5775-6775
料金:前売4,500円 当日5,000円