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箆柄暦『四月の沖縄』2010 登川誠仁

2010.04.20
  • インタビュー
箆柄暦『四月の沖縄』2010 登川誠仁

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箆柄暦『四月の沖縄』2010
2010年3月31日発行/084号

 

《Piratsuka Special》
登川誠仁
今年78歳の現役トップスター、円熟の醍醐味。

若き日から長年にわたり、沖縄民謡界のトップスターとして活躍し続けてきた誠小こと登川誠仁。今年秋には七八歳を迎える現役最高峰の歌い手が、前作『酔虎自在』から約二年ぶりに、ニューアルバム『歌ぬ泉(うたぬいじゅん)』を発表した。昨年十二月にコザで行われたレコーディングでは、二日間で全十二曲の歌三線と太鼓をテンポよく録音。最近は体調を気遣って好きな酒を控えていることもあり、身体も声もコンディションは上々、仕上がりは自身でも満足のいくものになったという。

「今度のは、ワシも面白かったよ。(完成作を聞いて)これは誠小らしい歌である、と(笑)。声も若い時分より落ち着いているしね。昔に録音した歌は若いからよ、声は出ているけど落ち着きがないんだ。あと太鼓もね、ワシは太鼓は専門だからね。沖縄の歌は太鼓で引き立てんと面白くないが、今回はワシが太鼓を入れている。だから今度のは、自分で聞いても面白いんだ」
その言葉通り、独特の飄々と嗄れた歌声には年輪ぶんの重みと味わいが加わり、深い情けを感じさせる。リズミカルな太鼓とキレのいい三線がその歌を支え、収録曲は昔の民謡からオリジナル曲まで、どれも「今の誠小ならでは」の聞きごたえ十分だ。

「歌というのはね、聞いて面白い歌が歌なんだ。ワシは、歌は遊びと思ってやっている。たとえ山小屋に一人でいて寂しくても、歌があれば面白くなるんだよ。悲しいことを忘れるための歌、といってもいい。だからあんまり難しく考えないで、自分のいいようにやったらいいんだよ。You, understand?(笑)」
歌は気持ちで歌うものがポリシー。気持ちよく歌っているときは、昔から覚えた歌が次々と口をついて出てくる。また新しい歌もどんどん生まれるが、そういうときは思いついたらその場で古いカレンダーの裏などに書き付けておくという。「昔はね、トイレでも書きよったよ(笑)。昔のトイレは土に穴掘ったものだから、歌を思いついたら土の上に石で書いて、便所が終わったら紙を持ってもう一度入って、歌を写した。(代表作の)『豊節』や『戦後の嘆き』は、便所生まれだよ(笑)」

そう言いながら見せてくれたカレンダーの裏には、こんな琉歌が記されてあった。「歌と三線に我が情込めて、世々ぬある間や残しうかな」。まさに本作こそ、後世まで残すべき歌三線ではなかろうか。誠小先生円熟のパフォーマンス、必聴の一枚である。
(取材・文/高橋久未子、撮影/福田真己)
登川誠仁(のぼりかわ・せいじん) 1932年生まれ。16歳で劇団「松劇団」に地謡見習いとして入団。その後さまざまな一流劇団で地謡を務め、琉球古典、民謡、舞踊など沖縄芸能の基本を学ぶ。60年代の民謡ブーム以降は沖縄民謡界を代表する歌い手として活躍。99年には映画『ナビィの恋』に出演、全国規模で幅広い人気を得た。琉球民謡協会名誉会長、登川流宗家。

◆登川誠仁『歌ぬ泉』
リスペクトレコード RES-163
2010/4/14発売 2,500円
歌ぬ泉/南風原口説/伸び行く石川/伊計離り〜谷茶前/あやぐ/池間大橋/新鳩間節〜中作田節/誠小の六調節/歌ぬ心/ヌンヌクソイソイ/朝花/いちんかりゆし

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